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人工透析用水の化学的分析

腎臓の働きと腎不全患者数

腎臓には様々な働きがありますが、その中の一つに血液を濾過して老廃物や塩分を尿として体の外へ排泄します。また、排出した物質で体に必要なものは再吸収し、体内に取り込む働きをしています。腎臓の働きが悪くなると本来尿として排出されるべき老廃物が体内に蓄積し、最悪の場合尿毒症になるので、血液を浄化するために人工透析療法を行う必要があります。日本では人工透析療法を必要とする患者さんは増加傾向にありましたが、日本透析学会の発表では2017年をピークに減少に転じると予想されています。しかし今日も依然として30万人以上の腎不全の人々が透析を行っています。

図:ダイアライザーを用いた人工透析の模式
人工透析用水の質

透析療法には透析機器に血液を通して血液をきれいにする血液透析と、患者さん自身の腹膜を利用して血液をきれいにする腹膜透析の2つに分けられます。透析機器による療法はダイアライザーと呼ばれる非常に小さな網目のチューブ(中空糸膜)の中に血液を通してその外側にきれいな透析水を流して、網目からろ過された血液中の老廃物を洗い流す方式です。透析水に低分子の不純物が混じっていると小さな網目から逆に血液中に入り込み身体に害を与えます。そのために透析液に使う水は高純度でなければなりません。一回の透析に使う水は120Lにもなります。透析に使う水の原水は主として水道水ですが、水道水には様々なミネラル、塩素などが混じっています。さらに原水を殺菌消毒した時に細菌の死骸から出てくるエンドトキシンという毒素が混じっています。エンドトキシンは微量であっても炎症などを引き起こすので、長期にわたって透析を続けている患者にとっては見逃せません。従って、人工透析には原水に溶け込んでいる様々な物質を取り除いた高純度の水が必要になります。

透析用水の分析

人工透析用の水は各医療施設で専用の機器を使って作られます。専用機器はフィルターろ過、イオン交換、活性炭吸着、逆浸透膜、紫外線照射などを組み合わせて微粒子、クロラミン、エンドトキシン、ミネラルなどを除去した高純度な水が作られますが、この水が本当に安心して使える水か否か分析用の機器を用いて調べる必要があります。

透析医療の安全性の担保と最低限の遵守事項を基本とした、日本透析医学会による透析液水質基準(2016年版)に基づいた検査を行います。透析液水質基準では、水質を「原水」「透析用水」に分け、各々に水質項目と適用基準が定められています。透析用水に用いる原水は水道水、地下水などの如何を問わず水道法による水質基準を満たす必要があります。

分析機器の写真
表1 化学的汚染基準(ISO13959)
検査項目透析用水化学的汚染
基準(ISO基準)
グループ区分
1 アルミニウム 0.01mg/L 透析での毒性が報告されている汚染物質 第1グループ
2 総塩素 0.1mg/L
3 0.1mg/L
4 フッ化化合物 0.2mg/L
5 0.005mg/L
6 硝酸塩(窒素として) 2mg/L
7 硫酸塩 100mg/L
8 亜鉛 0.1mg/L
9 カルシウム 2mg/L 透析液に通常含まれている電解質 第2グループ
10 マグネシウム 4mg/L
11 カリウム 8mg/L
12 ナトリウム 70mg/L

引用: (一社)日本透析医学会 2016年版透析液水質基準透析会誌 49(11) :697~725,2016

検査項目・頻度等ご不明な点は水道法登録検査機関である当センターまでお問合せ下さい。
また、化学的分析だけではなく生物学的汚染管理基準に基づく検査も実施しております。

【お問い合わせ先】
一般財団法人 北里環境科学センター 理化学試験課
TEL:042-778-9208 FAX:042-778-4551
E-mail:info@kitasato-e.or.jp
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