抗微生物物質について
ヒトに限らずすべての生物は微生物と共存共栄しています。特にヒトは発酵食品や下水の浄化などに微生物を巧みに利用してきています。一方、すべての生物は微生物と戦っていますが、様々な方法で感染に対処しています。人類は感染症の原因が理解できなかった時代でも、経験的に感染症に対して植物や無機物などを利用して微生物に抵抗してきました。近年、科学の発展に伴って人類は抗微生物物質を発見し、それらをヒトや動植物の感染症の予防、治療に利用しています。
抗微生物物質とは微生物に直接作用して何らかの機序で微生物の増殖阻害あるいは殺菌する物質です。ヒトや動植物に対する安全性、微生物に対する選択性などを考慮して使用目的を分けており、保存剤、防腐剤、消毒薬、および抗生物質を主とした治療薬などに分類できます。医療、獣医・畜産、農業、漁業、生活環境などあらゆるところで利用されています。
農薬散布 = 植物病原菌対策 | 医薬品 = 抗菌薬 |
防腐剤と保存料は一般的にはほぼ同意語のように思えますが、防腐剤はそれ自身殺菌作用があるなしにかかわらず微生物の増殖を制御して製品の腐敗・変質を防ぎます。一方、保存料は単に微生物の増殖を制御する物質以外に、製品の化学変化(例えば酸化)などによる変質を防ぐ機能を持つ物質もあります。いずれにしてもヒトや動物の安全性に影響するので、使用基準は厳しく設定されています。
点眼薬 | スキンクリーム | 食品 | 木材 |
防腐剤や保存料は様々な分野で使われている |
消毒液のスプレー |
家庭では塩素系および アルコール系消毒薬が一般的 |
消毒は物理的消毒と化学的消毒に分けられますが、家庭では物理的消毒は加熱、化学的消毒はアルコールや塩素系などの消毒薬が使われています。医療分野では消毒薬は殺菌作用の強さによって高水準、中水準、低水準の3種類に分けて使われていますが、家庭環境では中~低水準の消毒薬が使われています。使用基準を守らないと、期待された消毒効果が得られないことと、安全性が担保できないので、製品に添付された用法・用量を守ることが大切です。一方、除菌を目的とした製品が販売されていますが、薬機法に抵触しない製品で菌数を減らす目的で使われています。このほかに、農業、畜産、漁業など様々な分野で消毒剤が使われています。
ハロー写真(カビ、細菌) |
抗菌薬を含ませたディスクの 周りには菌の増殖が見られない |
ヒトや動物の感染症の治療薬としては抗生物質を主体とした薬剤が使われており、種々の細菌に対して期待する効果を発揮しています。さらに、優れた抗真菌、抗ウイルス作用を示す化学合成物質も種々登場し、人類に恩恵を与えています。しかし、抗菌物質に耐性の微生物および新興感染微生物が現れ、ヒトと微生物の戦争が絶えることはありません。天然痘を克服したように、人類の英知を持って感染症を減らしたいものです。
当センターでは長い間培われてきた微生物に対する知識、経験を生かして細菌、カビ、酵母、ウイルス、原虫などを対象として、微生物制御作用を示す物質や機器の性能評価を行っております。
【お問い合わせ先】 一般財団法人 北里環境科学センター バイオ技術課 TEL:042-778-9208 FAX:042-778-4551 E-mail:info@kitasato-e.or.jp |